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遠出するときの荷造りで楽しみなのは、本を一冊選ぶこと。
読む読まないにかかわらず、文庫を持ち歩くのはいつものことだけど、旅行となると別だ。
帰ってきて荷をほどき、本棚に戻されたその本を次に開くとき、わたしはきっと旅行のことを思い出すし、本の雰囲気が旅行の記憶に合うなら、それはより印象深い思い出になっているはずだから。
帰りの飛行機まで、本はかばんのポケットに入れたままだった。
前の持ち主が栞代わりにしたらしい通勤定期券が挟まっていたのが気に入って買った。幸太郎さん。54歳。
もちろん捨てずに、栞代わりにしている。
離陸して、眠ろうかと思ったけれどうまくいかず、短編の幾つかを読んだ。ふと、通路から添乗員さんの声。
幸太郎さん、いらっしゃいますか。定期券の落し物です。
すみません、わたしのです。
明らかに幸太郎さんではないけども、添乗員さんの戸惑いとわたしの苦笑いの後に、栞は無事、神様に戻った。